【連載 vol.9 】福島県 「仁井田本家」の自然酒

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福島県郡山市は仙台、いわきに次ぐ東北第3の人口都市ですが、訪れたのは市街地から少し離れた田村町。のどかな田園風景が広がっていました。まずは見てください。敷地の入り口に置かれたこの大きな酒桶(さかおけ)を。自・然・酒。刻まれた三つの文字がこだわりを表しています。「仁井田本家」。ずっと来たかった場所です。


江戸の中期から連綿と311年。

スキンケアやヘアケアのご紹介が続いたので、今回は景色を変えました。日本酒好きの方はご存知かもしれませんが、「仁井田本家」。300年以上の歴史を誇る酒蔵です。創業は正徳元年(1711年)。調べたら徳川幕府6代、7代の頃でした。迎えてくれた仁井田穏彦(にいだやすひこ)さんは、18代目の蔵元。杜氏も務めていらっしゃいます。

「長年蔵を守ってくれた杜氏の引退を機に、2010年に自分が引き継ぎました。蔵元としてだけでなく、酒造りにも深く関わって技術も繋いでいこうという思いからの決断でした」(仁井田さん)

杜氏の仕事は特別です。蔵元のお酒の特徴を作りだし、かつ出来上がりを成功まで持っていかなくてはなりません。杜氏はアーティストであり現場のマネージャーでもあります。蔵元は別にいるのが通常のやり方です。蔵元自ら杜氏をやると手をあげた仁井田さんはなおさら特別です。しかも、杜氏を兼任した翌年に震災って。

「2010年はちょうど全ての酒を自然酒へと切り替える準備が整った年で、杜氏として初の仕込みを終えて迎えた2011年は、創業300年の節目の年でもありました。社としてもお祝いムード一色。そのさなかに、あの地震と原発事故が起こってしまいました。もちろんお祝いどころではなくなりました」(仁井田さん)

一体この後のこの地、この世界がどうなっていくか、全くわからない中に投げ込まれた仁井田さん。「風評被害にも悩んだ」と。「でも逆にここから、本当に本気で自然派の酒造りが始まった」とも話してくれました。「何があっても、この村で生き延びていこう」「循環する小さな世界のように途切れることなく、途絶えることなく、作物を作り、自給自足で食べていける地域にしよう」「化学物質に依存せず米を作り、この土地の資源である“水”を絶やすことなく本物の酒を造っていこう」と、震災を境にして決意が固まったと言います。

というわけで、今、仁井田本家のお酒は全て自然酒です。酵母も自然から取り込んでいます。



↑左が18代蔵元杜氏の仁井田穏彦(にいだやすひこ)さん。お隣は発酵食品部を率いる女将の真樹(まき)さん。

「実際には酒類に自然酒という区分はありませんが、原材料は無農薬・無化学肥料で栽培した自然米、山の湧水と井戸水、天然微生物の力だけで仕込んだ酒母、それで全てです。創業以来 “酒は体にいいもの”を信条として、現在は『にいだ しぜんしゅ』と『おだやか』という2つのブランドを展開しています」(仁井田さん)


料理酒をいただいたことが、仁井田本家を知るきっかけに。

実は、私と仁井田本家さんの出会いは、その2つのブランドのどちらでもなく、料理酒の「旬味」をいただいたことに始まります。それは仕事で我が家にいらした方からの手土産でした。「えっ、おみやげに料理酒?」とは思いました。でも、よく見るとラベルに「しぜんしゅ」から生まれた濃醇で旨み豊かな料理酒とか、醸造発酵により天然アミノ酸を増やし、などとかなり普通じゃないことが書いてある。「ならば! 」と飲んでみることに。

「なにこれ〜」と叫びました、私。そこにあったのは、えも言われぬ芳醇な旨みの世界。他のどこの国のお酒とも違う日本の米からできた特別なお酒でした。そこからは魚に、肉に、野菜に、お米を炊く時には常に「旬味」を入れる生活。ついでに「旬味」を飲むという具合 (笑)。これが仁井田本家さんとの出会いです。そこから「しぜんしゅ」の純米酒をお取り寄せするようになりました。

「ありがとうございます。旬味は昔ながらの生酛(きもと)仕込みです。精米歩合は90%。お米を10%しか削っていないので、お米が持つすべての成分が味わいになっています」(仁井田さん)


↑自然米だけで仕込んだ純米100%の料理酒 旬味 1.8L 2,860円(税込)、720ml 1,430円(税込)。お砂糖を使わなくても甘みと照りが加わり、ふっくら。

↑「旬味」を使った私の食卓。左からフライパンで焼いたローストビーフは焼き汁に。酢の物に入れると柔らかな味わいに。鯵の刺身は旬味とお酢と塩を入れて漬け込みました。牛乳に旬味プラスでカクテル風に。
 

トレンドには沿っていない。でも自然が作り出す旨みが溢れてる!

お取り寄せをするようになって、改めて感じているのは、仁井田本家さんのお酒は最近の傾向とは違うということです。最近の日本酒はお米を研ぎに研いで、オートメーションで管理した濁りやばらつきのないものがトレンドですよね。正直、仁井田本家さんのお酒は真逆とも言えます。イノセントなお酒ではありません。だけど自然が作りだす旨みが層をなすように舌に話しかけてくるのです。濃密で芳醇なのです。しかも、最高のお米と自慢の水が作りだすので、単に重いお酒とは違います。飲んだあとの体はあくまですっきり。よいものとはこういうものだと教えてくれます。




手間と時間がかかり技も必要な生酛(きもと)仕込み。お米や米麹をすり潰し液体にして、空気中の乳酸菌を取り入れて酵母を増やしていく方法です。伝承している酒蔵は少ないのではないかしら。「にいだ しぜんしゅ」をいただいた時「わっ、生酛仕込み!」とも思いました。

「酵母も自然派100%。蔵の壁や天井に自然に棲みついている乳酸菌などに協力してもらって、繁殖させて造っています」(仁井田さん)

おもしろいですよね。蔵に棲みついてる菌たちに活躍してもらうのですから。清潔にしておくことは大前提でしょうが、やたらに化学物質を使ったりせずに、居心地良く住んでもらえるようにしておくって。


↑「にいだ しぜんしゅ」は17代蔵元が1967(昭和42)年に「金寳自然酒(きんぽうしぜんしゅ)」の名で誕生させたロングセラー。発売50周年を機に、インクや紙の使用量を控えたサステナブルなデザインで、ラベルを刷新。左から純米原酒 300ml 770円(税込)〜、純米吟醸 720ml 1,870円(税込)〜、燗誂 720ml 1,430円(税込)〜、にごり 720ml 1,705円(税込)〜。

ミッションは“田んぼを守る酒蔵”。夢は“自給自足の酒蔵”

さて「早速飲んでみたい」と思ってくださった方もいると思うのですが、自社田を持っていて、自分たちでお米を栽培しているのも仁井田本家さんの特徴です。

訪れた6月13日は田植えを終えてまもなくの時。「今日は草取りをしています。よかったら手伝ってください。まずは練習を」と渡されたのは、防水合板にピアノ線を張った「中野式除草機」という道具。これを土に這わせて前後にこすると、草がふわーっと水面に浮いてきたり、除草機のピアノ線にまとわりついたり。自然栽培においてはなくてはならない、画期的な道具なのだとか。


↑肥料に頼らない自然栽培。草に土の栄養を吸われないためにも、除草は大切な仕事。


思いのほか深かった田んぼ。除草剤を使わないのですから、それはそれは草取りは想像以上に大変でした。手伝ったとは言い難い仕事ぶりで終わり、「自然栽培は慣行栽培の約半分しか収穫できず、日頃の手間もかかります」という仁井田さんの言葉が身に染みました。

「『俺たち、働き過ぎじゃねぇ?』と言いながら、誇りを持ってやってくれる社員には感謝しかないです」(仁井田さん)

そして「いつの日か60ヘクタールある村の田んぼ全体を自然栽培にしたい。自然環境が丸ごと豊かであれば、酒造りの生命線と言える水も守れます」と未来に向かっている仁井田さん。目指すは村の米、村の水、蔵の菌を使った自給自足の酒造り。




「それは僕の代で叶わないなくもいい。震災から立ち直って、今元気にコシヒカリやひとめぼれを作っている農家さんにはそのまま頑張ってもらいたいですし。『田んぼを譲りたい』と言われた時に、引き受けられる体力のある会社にしておくこと。無農薬の田んぼを広げて、美味しい自然酒で福島の魅力や安全性をアピールし続け、次の世代に繋いでいくのが自分の使命かな」(仁井田さん)


若い頃は親父を超えたいと気負っていたけれど。

「まぁ、今でこそ心底そう思いますが、若い時は親父を越えたくてとんがっていました。でもそうじゃなくて、その時の利益だけでなく、次世代や村全体のことも考えてきたから何代も続けてこられたことに気づけてよかった。父は100年以上持つ木造の酒蔵を建てて世を去ったし、祖父は裏山に木を植えて村の水源を守ってくれました」(仁井田さん)

そして先々代が植えた木は今すっかり成長し、「木桶へと姿を変えている」と言う仁井田さん。2020年からホーロータンクからの切り替えが始まったとか。捨ててしまった伝統や丁寧な手仕事の見直しです。本来の酒造りのやり方に戻しているのです。

「しぜんしゅは木桶があっていると思うんです。我々自身も木桶が醸す奥深さと複雑な味わいに期待しています」(仁井田さん)


↑酒桶も自給自足で。職人さんのもとで修行し、自分たちで作っている。
 

見学もお米作りのヘルプも歓迎。開かれた酒蔵を目指して。

濃く、楽しく過ぎて行った時間。オンラインショップもありますが、皆様にも機会があったら訪ねていただきたいと思います。見学歓迎。ショップでは飲み比べもできますよ。女将の真樹さんが企画するイベントもあります。

「風評は簡単にはなくなりません。いくら安心・安全と発信してもなかなか言葉では伝わりづらくて。ならば蔵に足を運んでもらって安全な地域で丁寧に造っていることを見てもらえたらという思いでおります。お子さんやお酒を飲まない方向けのスイーツデーもありますし、草取りも実は“ウィーディング”というイベントにしてみなさんに手伝ってもらっています」(真樹さん)

ウィーディング?

「weeding。除草っていうより聞こえがいいかなと(笑)。若い人にも参加してもらえるかなと思って」(真樹さん)

そして発酵食品部のリーダーも努める真樹さん。酒粕をパウダーにした「さけゆき」や糀の甘みを生かした砂糖不使用のスイーツなど、次々に考案した商品がヒット商品に。酒粕をパウダーにした「さけゆき」は溶かせば甘酒に。粉チーズ感覚でも使えますよ。「こうじチョコ」と「ふにゃとろ」は今では人気を二分しています。


↑左/甘酒の水分をとばして作った「こうじチョコ」 648円(税込)〜、右/「さけゆき」をまぶした生キャラメルのような「ふにゃとろ」(完売)。


ともにアイデア商品。日本茶やコーヒー、紅茶はもちろんお酒にも合う逸品。さすが仁井田さんよりもイケる口の真樹さん作です (笑)。そんな真樹さんにイチオシのお酒を聞いて今回は終わりにしたいと思います。

女将のおすすめ!
「創業300年の節目を迎えた2011年に造りはじめた『百年貴醸酒』。水の代わりに前年の貴醸酒で仕込み、次の年へとバトンをつないでいく特別なお酒です。年々美味しくなる鰻屋さんの秘伝のタレのように継ぎ足し継ぎ足し造っています。ボトルに浮かぶ「一〇〇」の文字の、上の◯は十の位、下の◯は一の位を表し、仕込みの年月を示します。1年ごとに目盛りが1つずつ増えていき、100年後の2111年には、月が満ちるように2つの円が白く満ちることに。子どもの成人式、還暦を迎える日、金婚式……未来を思い描いて熟成させておくのもオススメです 」(真樹さん)


↑ 百年貴醸酒2021 720ml 3,630円(税込)


2022.8.5 (撮影・文/野村始子 写真提供/有限会社 仁井田本家・成田香織)

 

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